映画「コーダ あいのうた」を観て思ったこと

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「コーダ あいのうた」公式サイト

私は歌っている人を見るのが好きだ。
歌手がステージに上がり歌を歌うのも好きだけど、本来歌う場所ではない風景で、その風景に存在する人が歌うシーンを見るのが好きだ。

この映画の冒頭も、船の上で主人公が歌うところから始まる。

私は、日常風景と誰かが歌っているシーンが重なるのを見ると胸がざわざわする。たぶん、日常に歌が合わさることで、急にいつもの状況の中に意外性が生まれ、空気が変わるからだと思う。

逆に、ステージはハレの場であり、歌を聞くために集まった人に期待どおりの歌と感動が届けられ、そこは予定調和の場だ。

でも日常には、人の心を惹きつけるだけの歌い手はほとんど存在しないから、日常のシーンの中で誰かの歌を聞くと、人の心を動かすほどの歌を歌えるということが、いかにまれで特別なことであるか思い知ることができる。

この映画では、漁船の上で歌うシーンを始め、森の中や自転車に乗りながら、主人公の部屋や音楽室で歌うシーンが出てくる。

主人公の生活の中に突然、魅力的な歌声が重なってくると、そこだけが立体的に際立ってきて、そんなシーンに鳥肌が立った。

映画「コーダ あいのうた」の素晴らしさの大部分は、主人公が歌うシーンだと言ってもいいくらい魅力的な歌声だった。

一方では、その歌声は主人公の家族には聞こえなくて、”音のない世界”と”音のある世界”を行ったり来たりする主人公の気持ちの揺れが丁寧に描かれていた。

タイトルのコーダとは「Children of Deaf Adults」、聞こえない親をもつ聞こえる子どものことだそう。私はこの言葉を初めて知った。

映画の中で全く音がなくなる場面がある。私は、音がないとはどういうことなのか、映画の中で体験して初めて感じることができた。そんな自分の想像力なさを突きつけられ、自分がこれまで当たり前と思っていた世界はすべての人にとっての当たり前ではないということを思い出した。

久しぶりに映画館でこの作品を見て、少し視野を広げることができた。
つい自分本位でしか世界を見られなくなり、他者の目線を忘れてしまうから、たまには映画を見に行って違う世界に触れないといけないなと思った。

視点を変えるきっかけをくれてありがとう、と思った。

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